【塔】2023R5.、.、12月号 

今日最も暑きは桑名といふラジオ聞えて出かける二度目の再配

前籠とうしろと均しく積むメール前籠減りゆきハンドル軽し

段々畑を迂回し迂回し登る道地下水滲み出てバイクがすべる

稲妻に雷鳴に怯えて蹲る猫の鼓動がわが膝伝ふ

古火鉢並べ睡蓮咲かす寺値札を付けて火鉢ごと売る

わが庭の鉢の睡蓮今にして外来種と知る知れど浄らか

歌稿を清書し月の区切りとする暮し嘆かず悔いず今も迷はず

2023:::11月号

 店内の冷房が漏れる店の前配達に来て暫したたずむ

 梅雨晴れの稲田に餌を欲る白鷺らバイクの音にみな首のばす

 灯に寄せて眼鏡ずらして宛名読む照明うすきメール仕分場

 同業他社から転職した君見習ひの必要なしと一人乗務す

干からびしツリシノブ軒に揺れてをり二年売れざる廃農空家

 野良猫行けば蝉の声やむ森の道人間吾には蝉鳴き止まず

【塔】2023R5年10月号

釣瓶の柄今年の青竹に取り替へて水汲む手元竹の匂ひす

新しき玄関眺めてじっと待つ夕暮に自動で灯の点る筈

踏めば鳴るグレーチングのがたつきは防犯になる直さずともよし

遮断機を押し上げその身を投げ出すは絶望であるか勇気であるか

遮断機のあがるを待つ間のわがバイク鬼ヤンマ来てハンドルに待つ

「のみ」の意味軽んずなかれ博士らが解釈改憲始めし気配

塔 2023年9月号

黄砂降る生あたたかき輪中の村今年新たな鯉のぼり泳ぐ

水屋開け木舟検べる茣蓙を干す輪中の村に梅雨入りせまる

水屋にて命を守りし祖たちの遺影は並ぶ水屋の梁に

マスクを二枚重ねよと上司に気遣はれ黄砂の町へ配達に発つ

正しき敬語でゆっくり話す若き君机にいつも広辞苑がある

わが家の外壁白く塗りかへて心あかるく日々を過ごさむ

    

【塔】 R58月号 

電子カルテが書けず廃業するといふ君に最後の診察を受く

雨に濡れしメールにお詫びを書いて貼るシールも雨に書く文字滲む

郵便配る君を追越し追ひ越され配達帰りは並んで走る

郵便配る君の非正規を嘆く声聞きつつ川原にひととき休む

校庭にサッカーボール唯ひとつ忘れられゐて寒き夕暮れ

戦中に産まれて勲と付けられし名前の馴染まぬ世を生きたりき

「塔」2023R5年 7月号

灯明を揺らさぬやうに声おとし心鎮めて正信偈を読む

加湿器の蒸気にくきやかに虹たたせ窓に差し入る彼岸の朝日

立入禁止の札あり地主に許されて日々通り抜けメールを配る

常の如く門扉に来たりしシェパード君メール咥へて持ち行きくれる

犬に噛まれて三針縫ひし配達員今朝も休まず配達に発つ

前輪の浮くほど急発進繰り返し配達急ぐ雷せまる街

「塔」2023 R56月号

記念品も賞もなけれど貼り出され配達トップのわが名嬉しき

鼻奥にツーンと冷気の沁みる朝マスクを二枚着け配達す

門前に大き門松飾られて郵便受けに手が届かない

あかぎれの痛き手かばひて配達し軍手の指先血の滲みゐる      

他の男に嫁ぎてゐればと悔いたことあるのか無いのかない筈はない

発熱ベストを脱ぎて午後は配達す風やみ陽が差し梅かをる村

塔  2023  R5 / 5月号

朝々に読経の声の漏れ聞こゆ連れあひ亡くしし友ひとり住む

送迎車到着ラッシュのデイケア館配達バイク近寄りがたし

左へ左へ街角曲る配り方早くて疲れの少ない配り方

軽々とバイクあやつり配達す声明るくして挨拶交はして

お磨き奉仕を終へし門徒ら寺庭の銀杏拾ふ譲りあひ拾ふ

朝焼けに川霧染まる揖斐河口蜆舟の鋤簾曳く音

2023R5 / 4月号 

右ひだり蛇行しバイクの跡のこし配達する街初雪降る街

待てば雪やむか濡れて出かけむか再配指定の時間が迫る

配達量トップを続けて八十歳このごろ三位を超える月なし

ひと村を配り終へて次に行く山裾の村に雷雲迫る

ウクライナの砲撃されし街映る青きポストも壊れて映る

ミサイルは白雲曳きて飛ぶといふその雲見ぬまま一生終へた

荷積みを待ち運転台でゲラを読み編みたる歌誌もいまに続かず

【塔】2023R5:::3月号 

 楽鳴らしパン売る車の過ぎしあとパンの匂ひしばし漂ふ

 この夏の網戸を洗ふ鈴鹿嶺に初冠雪のラジオ聞きつつ

 横丁のどん詰まりの店にゐたといふ尋ね来たれど辞めたと聞けり

 樋走る雪解水の音やまず冷え緩むまま夜は更けゆく

 飲酒なし体調よしバイクも調子よし始業の手順も型に定まる

 配達数減らされし我は八十歳悔やしくもありさみしくもあり

 障子貼る手に差す日差あたたかし紙端を切る妻も日のなか

【塔】2023 R5...2月号

ミサイル発射そのたび長官紙を読むカメラに目線を合わさずに読む

いただきし君の歌集を読みをれば歌つくる意欲また湧いてくる

歩兵中尉をまん中にして右ひだり兵卒の墓並ぶ山寺

石塀で周囲を囲ふ村の墓地塀の外に墓ひとつあり

刈田から風吹き上げる山の寺村人檀家ら銀杏拾ふ

報恩講の読経の響く堂の内棲みつく鳩のくぐみ鳴く声

【塔】2023令和5年・1月号

藁葺をトタンの屋根に葺きかへて軒の干柿一列華やぐ

秋祭り社の提灯今年からLEDの明るすぎる白

カレンダーチラシ包装紙溜め置きてメモ用紙にする慣ひ変はらず

盛り上がり彼岸花咲く畦際の数列残して稲刈機進む

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【塔】 2022 R4.12月号 

 ズボンの裾を踏むほど身の丈縮まれど配達続けむ今日八十歳

 配達終るマスクを外す川土手を水の匂ひを愉しみ帰る

 風邪をこじらせ死ぬ人もありとコロナ死を易きに語るテレビの識者

 純血の柴犬美女に声かけて配達に寄るこの家たのし

 半開きの格子戸倒れし竹箒サンダル片方ただごとならず

 骨折詠んで只事歌よと嘲はれぬ我に骨折ただごとならねど

 

【塔】2022:::令和4年11月号

 人差指を立てて茶碗を持つ癖は幼く父に直されたりき

 父五十歳の記念に押したる朱の手形吾より大きく横皺太し

 夕立を集めて激つ側溝を揉まれ捻られ流るる蛇殻

 アンダーパスの水を汲み出すポンプ車のあまた赤灯際立つ日暮

と遠雷聞こゆる山の村配るメールの湿り帯びきぬ

 危険な暑さとテレビニュースの映す街日影を伝ひ伝ひて配る

 

【塔】2022 R4年10月号

 マスクに籠る声で苦情を言ふ人にマスクで顔を隠して詫びる

 激流となりて危ふき川土手を時間指定の再配急ぐ

 夕暮の逆光となりし橋のうへ浮き出る人影解けゆく人影

 配達して日々通る道の自販機に今日は茶を飲む日影に休む

 鳶に掴まれ蛇はのたうち空高く持ち去られたり如何になりしや

 大音量に選挙カーの過ぎしのち村ひそかなり日照りのつづく

 青空と雲と映る早苗田にドローンも映りて肥料を散らす

【塔】2022 R49月号 

 カーブミラーにバイクをとめて確認すわが姿勢よし身だしなみよし

 春祭り神輿お練りの進む街配達順路を変へ遠回り

 コロナ禍の三年見ざりし孫娘マスク外せば乙女さびたり

 記す予定は老いて少なくなりたれど持たぬは寂し手帳を買ひぬ

 月々に原稿用紙に手書きする文字拙くて歌みすぼらし

 朝夕に危ぶみ階段踏み通ひ八十過ぎてなほ二階に住む

 

【塔】 2022 R4/8月号

 爆撃に慣れることはなからむに惨状報ずるテレビに見飽く

 無差別爆撃原爆投下虐殺は勝ちたる側は裁かれざりき

 花市場の花競る声に戦場の惨禍を伝へるラジオの混じる

 雨降りは配達しにくし雨降りは気分変りてよしとも思ふ

 マスクから息漏れ上がる眼鏡くもる眼鏡外せば宛先読めぬ

 花吹雪の土手をバイクで走り抜け上着を脱ぎて花振り払ふ

 勿体ない捨てるな黴は削ぎ落とせわが焼く餅を孫らは食べず

 

【塔】2022令和4/7月号

 部屋閉ざしひとり籠りて墨を擦る墨の匂ひに包まれて擦る

 ビル風にふらつくバイクからうじて立て直し配る代配今日は

 問ひ掛けに今度もヘラヘラ笑ひおく意見を云へばまた睨まれむ

 梅の花匂ふ村を配達し配達しながら梅をたのしむ

 橋渡り配達帰りを遠回り桜見上げて菜の花見遣りて

 念のため訊き直したる三度目に「紙に書いとけ」一喝されぬ

 あの辺りを人工衛星飛ぶ時間と君の指す空鷹ひとつ飛ぶ

「塔」 R4年6月号 

角ごとに風向き異なるビル風にも慣れたり新しき配達区域

雨が雪に変はり始めし夕暮も行かねばならず再々配達

エアコンの温度を上げて二度寝する雪で休みとなりたり今日は

雪が積もってる 弾む声は妻の声 初めて会ひたる日の若き声

配達の足の運びは軽くなる軍艦マーチを鼻歌にして

彼杵はソノギと読むんだかの土地に古き友ありよき歌を詠む

 

2022 R4 5月号 

 

新聞広げ足の爪切る縁側に春立つ日差ぬくとし眩し

 

金婚記念に指輪作らむ妻と我が名前のイニシャル&で結びて

 

わざわざ行過ぎ小走りに戻り配達す老化防止に歩数ふやすため

 

啀みあふ三匹の犬あひ離れバイクの我に道開けくれぬ

 

郵便配達君と常に出会ふ角今日も出会ひて声交はし過ぐ

 

夜々の窓に来たりしヤモリらは雪積む今夜いかにしをらむ

 

2022 R4   4月号

 

 霙降る山裾の村を配達す発熱ベストを最強にして

 

 ヘルメットの風防にベタ着く牡丹雪頭振り振り落としバイク走らす

 

 寒暖差激しかりし日の暮れて湯上りの妻薔薇の香纏ふ

 

 ホームページはいつまでネットに置いとくかわが死後のこと倅に問はる

 

 美濃和紙に張替へ障子温かし洗濯物の影も昼寝す

 

 【塔】2022 R4:::3月号

 

君の形見のジャンパーを着て配達す軒の初雪解け残る村

 

敷用と上掛用の電気毛布全身電気に包まれて寝る

 

丘の上は朝日の照る街あたたかし朝一番に配達する街

 

この先は上りと下りにふた分かれ朝は日の照る上り坂ゆく

 

時報の音を出ないやうにセットしてやや大らかになりしわが日々

 

読み直し今日は感動薄ければ角折(ドックイア)を元にぞ戻す

 

【塔】2022  R4...2月号

 

コスモスの花びらはづし手に集め投げあげ遊ぶ老いたる妻と

 

老いしゆゑ歌をやめると友の文麻痺のすすみし手で書きし文字

 

背筋伸ばして今朝も散歩は早歩き稲刈あとの稲匂ふ道

 

スニーカーに履き替へ再配達に出づアパート多き雨上がりの街

 

窓深く差し込む日差に素足干しひとときまどろむ霜月三日

 

どうも どうも と頭を下げあふ人見れば呻きを交す牛にも似たり

 

【塔】 2022 令和41月号

 

来客のなきにも慣れて老い深しご飯出来たと妻の呼ぶ声

 

彼岸花が咲いたと噂に聞きし土手散歩に出かけむその川の土手

 

側溝の蓋を踏む音ひびく路地その角の家に君ひとり住む

 

大甕に束ねて挿したる彼岸花黄泉の灯りを想ひ愉しむ

 

留守電三日休業中の札四日友の安否が気になり始む

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